女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

すぎな之助(旧:歌帖楓月)



99 君の望みのままに

「明理沙!」
 動いたのはエフィルだった。
「助けるな。ここから動くな」
 リディアスが制した。
「何故です!? 死んでしまう!」
「リディアス? なに考えてるの?」
 エフィルとシルディが非難の声をあげた。
 金糸の君は首を振る。
「異世界の少女は死なない。死んでしまうのは、ユエかエフィル、そのどちらかだ」
 お前は死にたいのか? と、リディアスは若者に聞いた。
「あなたが何を言っているのか、わかりません」
 エフィルは困惑した。
「なんのつもりで、私を連れてきたのです? ……あなたは計り知れない。それどころか、正気を疑いたくなります」
「計られるのは嫌いだ」
 金糸の君は目を細めた。
「ユエを始末して世界を続けるか、お前を闇にくれてやって世界を滅ぼすか、どちらかだ」
「どうしてそんな物騒な物言いをするのですか!?」
 白い魔法使いは、むっとして言い返した。
「話し合えばいいではないですか! ユエと!」
「そのユエが言ったように、既に『交渉決裂した』のだ。もはや言葉は必要ない」
「何か歪んでる気がする。何か隠してませんか? あなたは本当な何がいいたいのですか?」
「……」
 リディアスは、嫌そうにため息をついた。
「白い者にはわからない。そして、わからないまま生きていくしかない。知ってしまったら、終りだ。もういい。お前は生きろ、エフィル」
「は?」
「帰れ、と言ったのだ」
 言うなり、世界一の魔法使いは、エフィルを消した。

 金糸の君の城に、エフィルが現れた。荷物が放り込まれるように、ぞんざいに床に転げ落ちてきた。
「おわ!? エフィル?!」
 カイの目の前に、彼は現れたのだ。
「どうなったんだ? ユエの用は済んだのか?」
「……」
 呆然と座り込んだエフィルは、肩を震わせていた。
「無茶苦茶だ」
 ひそやかに漏れでた低い声に、カイは「何が?」と聞いてみるのだが、答えはない。
 光輝の妖精が、気遣わしげにふわりと飛んで、エフィルの肩に座った。
「帰されたのね?」
 リキシアの静かな問いかけに、若者はうなずいた。
「呼びつけたくせに、強制的に転移です。なにがなんだかわからない」
 矜持を傷つけられた怒りと、疎外された悲しみが、エフィルの顔を紅潮させ、目を潤ませていた。
「リキシア、教えてください。どうして、どうして彼を選んだのですか? 彼は勝手が過ぎます」
「……」
 リディアスの友人は、穏やかな目で若者の嘆きを聞いた。そして、静かに、遠くを見てそっと微笑んだ。
「そうね。彼は、他の者の理解を超えている。そして、相手の理解を得ようとはしないわね。王の……リディアスの役に立ちたかった?」
 先王の親衛隊長だった青年は、唇をかんで、うつむいた。
 溜まっていた涙が落ちた。
「……わかりません。今は、ただ、悔しいです」

「どうして、今、エフィルを帰すの!?」
 シルディが悲鳴をあげた。
「卑怯者!」
 ユエが非難した。
「卑怯者! エフィルを戻して!」
「闇に卑怯呼ばわりされるいわれはない。無くなるのはお前だ」
 リディアスは無表情で闇に言った。
 シルディが、もうっ、と声をあげる。
「エフィルをどこにやったの? 言葉が足り無さすぎるわ。リディアス、あなた、緊迫感とか、何か、今一番大切なものが抜けていない?」
「エフィルに聞かせる必要はない」
 にべもない。シルディは、ほとほとまいった。
「……もう。何を聞かせるのかが、そもそも、わからないのだけど?」
 闇の少女が歯噛みした。
「エフィルと一緒に無くなりたかったのに!」
「お前の相手は、最初から私だけだ。間違えるな」
 金糸の君はシルディを抱えなおした。
「戯言は終りだ。虚言を弄するお前の口を封じる。物の分際で人型になるから誤まるのだ」
「生意気な。お前こそシルディと一緒にいるくせ」
 ユエの声が聞こえなくなった。
「当たり前だ。彼女は私の証なのだから」
 虚無の闇の中で、世界一の魔法使いの声だけが響く。
「でないと、私は白魔法を使えない。シルディ、一働きしてくれないか?」
「……」
 シルディは肩をすくめる。
「私はあなたの白魔法の『術具』、というわけ?」
「そうでもないだろう?」
 王の水晶玉が、リディアスからシルディの手に渡った。両手で、輝く珠を受け取ったシルバースターの背後から、世界一の魔法使いが手を回して、彼女の手を支える。
「私こそ、君の術具のつもりだが。……さあ、シド、君は、マジックキングダムの闇をどうしたい?」
 二人だけの時に使う呼び名を、金糸の君はつぶやいた。
「いいの? 私の望みを言っても?」
 御力の白い光の柱と、言葉を失った闇の少女を前にして、力の無い銀の星は背後を振り返った。
「私は白い心は持っていない。君の望みのままに、私のシルバースター」




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