シンデレラ2

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

前奏曲 王宮建設

「第五王子の誕生日に王宮をプレゼントですか?豪勢なお話ですね」
 30を過ぎたばかりの男は、感心した様子で、持ちかけられた話に対して数度うなずいた。少し痩せぎみの体には、薄茶色の髪を揺らして、穏やかな顔がほほ笑んでいた。
「とんでもない。ただ、偶然重なっただけなのですよ」
 王の重臣が、苦笑しながら否定した。こちらはかっぷくのよい初老の男だった。
「王子への誕生日の贈り物は、練習用の剣と、勉学の本でございます」
 それを聞いた男の方がかえって渋い顔になった。
「仮に私がもらう立場なら、嬉しくない物ですね」
 その反応に安心した様子で、重臣は言葉を紡いだ。
「ええ。王族は決して華美な生き方をしてはいないのですよ。どうも国民の中には誤解している方が多いのですがね。王も王妃も、王子や姫たちに厳しく接していらっしゃいます。何しろ、やがては国を背負う方なのですから。簡素と節約を旨として、育てられております。まあ、他国へ見せる体裁もありますから、どうしても必要な贅沢は省きませんが」
 まるで、苦情を言いに来た民に、王宮の実情をわかってもらうような風情で、重臣は腰を低くして控えめに言った。
 男は、相手の言葉の内容から思い測られる、王宮内部ではきっと苦労しているだろう様子に、同情的な顔になった。
「色々大変ですね。上の人達は。それに比べて私みたいな類の人間は幸せだなあ。好きなことに好きなだけ打ち込めるのだから」
「ああ、いえ。教授、すみませんね。こんなお話をしに来た訳ではないのですが」
 男は、軽く首を振ってほほ笑んだ。
「それもまた興味深い話でしたよ。依頼の件ですが、お受けしましょう。私も王宮の建築に、それも、特に私が興味を抱いている部分に携われるのですから」
 重臣の顔が、ぱっと輝いた。
「お受けくださいますか!」
「ええ。ただ、研究材料としての側面も持つことを、了承くださいね」
「結構です。こちらの方も、王宮の構造に関する機密を守っていただけるのでしたら」
「ええ守ります。しかし、斬新なことを考えましたね。からくりを研究している私にとって、とても楽しみなことです」



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