シンデレラ2

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

前奏曲 小さな家

「お前、一体、なにを、仕込んだ?」
 シーツにしわが寄ったまま整えられず、すでに陰影の縞模様と化したベットの上に、男が横たわっていた。年の頃は30半ば。たるんだ体を、静かに寝かせているのが精一杯だというほどに、衰弱していた。
 体の色は酒を飲んだように赤黒い。皮膚表面にはうっすらと汗をかいている。反対に、乾いて皮がはげた唇は、荒い呼吸で無理やり開閉されて血がにじんでいた。
 それを見下ろす女がいた。手には、透明な液体が入ったコップを持っている。水、だろうか?
 彼女は痩せ衰えていた。血走った目が大きく見開かれて、口は獲物をとった鬼のように笑っていた。
「なにも。何もしていないわ」
「うそ、を、つくな、おい」
「本当よ。あなたは本当に病気なの。もう治る見込みもないほどなのよ。だから、」
 女は心底うれしそうに、男の顔に、コップの液体をこぼした。
「これから仕込むのよ」

 そして、女は唄う。 「今日はとても良い天気。あなたの家を出ていくの」



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