「こんな所にいたのね」
唐突に声が響いた。
シンデレラは、驚いて目を覚ました。
石の床で眠っていた身を起こす。
プリムラが立っていた。
シンデレラは、彼女を幻かと思った。
「どうして、」
階段室の鍵は掛けたはずなのに。
プリムラは、首をかしげて馬鹿にするように微笑んでみせた。
「どうして?私がここにいることが不思議?鍵のかかった扉を通り抜けてきたことが不思議?」
たくさんの歯車の回る中を、プリムラはつかつかと歩み寄る。
シンデレラは逃げようと、立ち上がった。踵や足先や足の腹、靴に取り囲まれた足に、ざっくりと痛みが走った。思わず膝を折る。 プリムラは罠にかかった獲物を捕まえるように、シンデレラの左肘を掴み、自分の方へ引き寄せた。
「どうだっていいのよ。あなたにとっても、私にとっても」
シンデレラのドレスの裾には血痕が染み渡り、灰色の石の床には、あちこちに血だまりができている。
プリムラはシンデレラを抱え上げた。持ち上がった足から、血液がぼとぼとと床に落ち、一部はそばにある歯車にはねかかって、四方に飛んだ。
「行きましょう?」
頬にかかる艶やかな白金の髪に頬を寄せて、まばゆい金髪の美女が、手の中の乙女にささやく。
シンデレラは身じろぎをして抵抗した。
「離して、」
プリムラは縛るように強く抱き、血の雫を落とすガラスの靴を見やった。
「ひどい足。おとなしくしていたら、こんなにはならなかったのに」
ひどく楽しそうな笑い声が、プリムラの口からあふれ出てくる。
「さあシンデレラ。あなたは私の物。部屋に閉じ込めて着飾らせて、きれいなお人形にしてあげる」
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