シンデレラは、目を覚ました。
口に詰められていたガーゼはもうない。
ちょうど、左足に包帯が巻かれるところだった。
「起きたの?ちょうどよかった」
シンデレラの右隣で見下ろしていた召使いが、シンデレラの上体を起き上がらせた。
「飲みなさい」
左隣に立っていた召使いが、赤紫色の液体が入ったコップを口元に近づけた。
シンデレラは怪訝な顔で、コップを見、召使いを見上げた。
「毒なんか入ってないわ。ブドウ酒よ」
「どうして?」
「酔っていた方が楽だからよ」
「それはどういうこと?」
シンデレラは、意味を測りかねた。
シンデレラの左足に包帯を巻き終わった召使いが、答えた。
「わからないの?あなたはプリムラ様の寝台の上にいるのよ?私たちはね、プリムラ様から、あなたがそこを逃げ出さないようにしろと言い付かっているの。わかるでしょう?これからどうなるのか」
シンデレラは、身じろぎした。
「嫌、」
右隣にいた召使いをはねのけるようにして、寝台から降りようとする。
「駄目よ!おとなしくなさい!」
すぐに三人がかりで押さえ付けられた。
残った一人が、ガラスの靴を持って近づいて、寝台に歩み寄って来た。
「ようやくはめ込み終わったわ。シンデレラ。また動き出そうというなら、この靴をあなたの傷だらけの足にまた履かせるけど?」
左隣の召使いがつぶやいた。
「少し我慢すればいいだけのことよ?今までの境遇よりも、ずっと大切にしてもらえるわ?」
足元の召使いが言った。
「そんなドレスだって、今まで着たことないでしょう?プリムラ様の言い付けさえ守れば、豊かな生活が待っているのよ?もう、かまどの掃除をして灰を被り、肌を荒らすこともないわ」
右隣りの召使いが、言い募った。
「しなくてもいい天井裏の掃除も、命じられなくなるのよ?だってあなたはマリーの子ではなく、プリムラ様の物ですもの」
シンデレラは、瞬いた。
「天井裏の掃除や、かまどの灰のことを、なぜ知っているの?あなたたちはプリムラの部屋にしかいないはずでしょう」
「そうよ」
ガラスの靴を持った召使いが答えた。
「私たち4人、あなたとのかかわりなんか、ないわ」
召使いたちの唇にはなぜか、かすかなほほ笑みが浮かんでいた。
「それならどうして、」
さらに問おうとしたシンデレラの声に、扉を叩く音が重なった。
左隣りにいた召使いが、シンデレラを抱え上げた。
「なにを、」
「黙って」
言葉を制し、シンデレラを部屋続きの衣装部屋に運ぶ。
足元にいた召使いが、扉の方に行き、鍵を掛けた。残りの二人はベットを整えた。
シンデレラはドレスの林の中に連れて行かれた。そして、たくさん掛けられているドレスの中に埋もれるように降ろされた。
「いいわね?じっとしていて。一言も声を出しては駄目よ?見つかったら、今までの暮らしよりも酷い、地獄を見るわよ」
「どういうこと?」
「知らなくていいの。あなたは」
召使いは、掛けられているドレスを整えて他の部分との差異を無くし、シンデレラを完全にドレスの中に隠した。そして、部屋を澄ました顔で出て行く。
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