男は長女の部屋を捜し当てた。3階にある客室を出て、扉に鍵が掛けられていない場所は全て見た。しかし、開いている部屋はほとんど無く、多くが開かずの扉だった。
「マリーから、鍵を奪い取らねば」
そうつぶやきながら、2階へ降り、やがて、話し声のする部屋に来た。
全て、若い女の声だった。
召使いの控室にしては、扉が美麗だった。さては、二人いる娘のうちのどちらかの部屋だろうと思い、扉に耳を当てる。舞踏会で聞いた次女の声はなかった。するとここは、長女の部屋だ。
男は、いきなり扉を開けたいのを我慢して、扉を叩いた。
こちらへ近づいてくる足音がした。
ガチャ、という音がたった。
返答はなかった。
男は、扉の取っ手を回した。
開かない。
男は、再び扉を叩いた。
「もしもし。どなたかいらっしゃいませんか?こちらに招かれた客人ですが、どうも先程から頭痛がしまして。薬をいただきたいのですが」
ゆっくり五つ数えた後、扉が開いた。
「どなた様?」
召使いが、立っていた。彼女の後ろには、3人の召使いがそれぞれに何か作業をしていた。
長女らしき者はいない。
男は、優しい笑顔を作ったみせた。
「こちらの女主人様の、古い友人なのです。今日は舞踏会で偶然に再会しまして、こちらに招かれましたが。……こちらは、姫君の部屋でしょうか?」
果たして召使いは、ほほ笑んだ。
「ええ。ですが、今は不在です。私たちがその間に掃除をしているところですの」
「そうですか」
男は、優しい笑みを浮かべて、
召使いを押しのけた。
「何をなさいます!」
強引に室内に入って来た男に、召使いは非難の声を上げた。
「無礼な!こちらはわたくしどもの城の姫君の部屋でございます!いくらお客様といえど、許しませんよ!」
男は、まっすぐに寝台に向かって歩いた。寝台にはシーツも上掛けもない。ちょうどベットメイクの最中だったらしい。男は構わずに、むきだしの寝台にどっかりと腰を下ろした。そして、口ひげを撫でながら横柄にほほ笑んだ。
「そちらの女主人であるマリーから、私はさきほど城を譲り受けたのだよ。だから、今から私が城の主だ」
寝台のシーツと上掛けを抱えていた召使いが、「そんな、」とつぶやいて、不審そうに眉を寄せた。
男は肩をすくめて、召使いを見上げた。
「信じられないのなら、主に確認すればいいのさ。3階の客室にいるはずだ」
召使いの一人は、シーツを抱えたまま、部屋を出て行った。
部屋には三人の召使いと、男が残った。
「しかし、」
と言って、男は、三人の召使いたちをじっくりと見回した。
「この城の召使いたちは、皆、若い女だな。男や年寄りがいないのはどういうことだ?しかも全員、生意気な態度ときている」
男は、薄い唇を、赤い舌でなめた。
「外から女を買い込む必要もなさそうだな。私が、お前たち一人一人全員を、主人の思い通りになる召使いに教育し直してやる」
|