シンデレラ2

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

39 シンデレラ

 ロビンは、魔女を手籠めにした。妖艶な肢体を欲しいままにし、麻薬に沈められたように魔女を貪り抱いた。そしてようやく、取り憑かれたような欲望からわずかに解放された。若い体を踏み荒らされた花がどんな顔になっているかを、見てやろうという気になる。
 ロビンは顔を上げた。
 そして、息を呑むことになる。
「……」
 そこには、白い美貌の乙女が座っていた。白金の髪に深い青の瞳、そして白無垢のドレス。魔女の枕元に舞い降りた裁きの天使のような、白い美しさだった。
「なんだ、この娘は?」
 地上の悪事を天上で露呈されて煉獄へ送られるような、ぞくりとする罪悪感と焦燥感をもって、ロビンは魔女から体を起こした。床上に立って、乱れた着衣を急いで整える。
「お前は誰だ?」
 白い娘は何も言わずに、汚物を見るようにロビンを見る。ロビンの口から、言い訳のような問いが漏れた。
「お前もネズミか?」
 仰向けにされていたプリムラが、引き裂かれたドレスをかき合わせて身を起こし、枕元に這い上った。窓際まで寄っているシンデレラを抱き寄せる。
 犯されたはずの魔女は、宝玉を手中に収めたような勝ち誇った笑みを浮かべ、ロビンを下僕のように見た。言葉は無い。
 ロビンは、その光景に気圧されたように、再び問うた。
「魔女、その娘は何だ」
 プリムラの嗤いは消えない。

 そのとき、部屋の扉が、ぎしりと音を立てた。
「プリムラ、」
 奈落の底が抜けるように扉がばたりと開き、涸れた声と、よろけた足音が、転げ入ってきた。
 紫のドレスを着て、髪をばらばらに振り乱した女が、いた。右手には、自室に戻って持ってきた斧を持っていた。
「プリムラ、プリムラ、お願いよ、」
 呪われたうわ言のように、女が、くぐもったかすれ声で喘いだ。額からは血液が滴り、左頬は赤黒く腫れていた。
 だが、次の瞬間、女は目を見開いた。男がいたからだった。
「ロビン、」
 そして、寝台の二人の娘を目に入れた。
 引き裂かれ、乱れたドレスのプリムラ。寝台のあちこちに散る血痕。もう一人の娘、
 女の額に、青筋が浮いた。
「シンデレラ!」



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