シンデレラ2

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

45 医師と魔女

 プリムラの体は別室で、女の助手たちによって拭き上げられた。そしてフローレンスが着ていたのと同じ、白い前合わせの服を着せられた。
 そして、彼女の体を検分した医師は、クリスティーナの言葉通りにプリムラが何の負傷も負っていないことを確かめて、感嘆の声を上げた。
「本当に何の傷もない。なるほど、さすが魔法使いの仕事だな。これは」
「もういい?」
 感心してうなずいている医師に、プリムラは、やや疲れた声を出した。
「何が?」
 医師は、首を傾げてきょとんとしている。プリムラの意図するところを理解できないようだった。
「先生、服を着ていいかって聞いてるんですよ。もう」
 医師の周りにいた女性の助手が呆れた声で助け舟を出す。
 言われてようやく気づいた様子で、医師はあわてて答えた。
「ああ! ごめんごめん。どうぞ」
 助手たちが、医師を小突きながら、プリムラに謝る。
「先生、相手は若い女性なんですから、もっと配慮なさってください。ごめんなさいね? 失礼しました」
 医師は二の腕をさすりながらぼやく。
「痛いよ。ひじ鉄を当てるのは勘弁してくれ。骨折するじゃないか」
 助手の目が、鋭くなった。
「……なにかおっしゃいまして?」
「いや。なにも」
 それらのやりとりを聞いて、プリムラは息をついた。表情は、出血のせいか、けだるげだった。
「先生は、私の体を見ても何ともないようね?」
 医師はあっさりうなずく。
「患者の体は患者の体。一々動揺するようではやっていけないからね。傷がないことには驚いたけど」
「……魔女でも?」
 医師は、肩をすくめた。
「魔女なんて、王宮にはたくさんいるよ。ああ、彼女達はもう魔法使いだけどね。魔女は、普通の人間と違うところが色々あるというけど。まあ、慣れるものだよ」
 プリムラは、心に何かが入り、そしてそれが奥に沈んでいくような気持ちで、それを聞いた。
「そう。そうなのね」
 医師は暖かい笑みで、患者を見下ろした。
「治す手助けをしたいという気持ちは、どの患者に対しても同じだけ強くあるよ」



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