シンデレラ2

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

59 連れて行って

「君は午後からクビだ」
 帰って来た院長は、すました顔で、医師に宣告した。ちょうど、診察を受ける外来患者が途切れたころだった。
「……」
 医師は、なんでもない表情で院長を見上げた。
 院長は診察室にいた医師や助手たちを見渡して、言葉を加えた。院長は、料理人の「白衣」を堂々と着ている。
「二週間ぶりだね。諸君」
「十日ですよ院長」
「今回は早いお帰りだったですね」
 みんな、久しぶりの院長の登場に、怒るでもなく喜ぶでもなく、当たり前の表情で答えている。
 慣れている。
「ふむ」
 院長は軽くうなずいた。再び、医師を見下ろす。
「あと10分で正午だ。出て行きたまえ。そして夕刻まで戻って来るな。ファウナ王子とクリスティーナの所に行け。以上だ。返事は?」
「はい」
「どけ。後は私が引き継いでやろう」
 院長は、医師を椅子から追い出して、代わりに座った。
 助手が尋ねる。
「院長、お昼ですがお食事は?」
 院長はゆるやかに首を振った。そして、歴史書をひもとくような口調で、静かにおごそかに答えた。
「さっきまで桃のケーキをしこたま試食していた。もう何も見たくない」

 追い出された医師は、病棟に行った。
「おそらくあれだろう。強制的に休まされたのは。医師として患者を守るために、急がねば」
 医師は、さっき入院したばかりの患者の元へ向かった。

「どうだい? 具合は」
 個室の扉が開き、医師が顔を出した。
 眠るでもなく窓外の景色を見ていたプリムラは、扉の方を見た。
「悪くはないわ」
 つれなくも聞こえる答え方に、医師は笑った。
「そう。よかった。ところで、プリムラ。午後から、あなたの城を案内して欲しい。教授を殺したという毒を手に入れたいのだ。どう? 具合が良くないなら、あなたを連れて行くのは止すよ。クリスティーナが来てもここには通さないから」
「いいえ。構わないわ」
 プリムラは、ベットから降りて立ち上がった。顔色は悪かったが、ふらついたりはしなかった。
「連れて行って」



←もどる断章 「夜明け前の暗黒」へ→



作品紹介へ inserted by FC2 system