シンデレラ2

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

61 終の棲家2

「全く。時間ばっかり食うわね。今はこのガキの話をしてる場合ではないのよ」
 クリスティーナはぶつぶつ言いながら、扉の前に立った。右手で、地面に膝を折ったプリムラの襟首をつかんでいる。
「顔を上げたら張り倒すわよ」
 憎しみの対象のようにプリムラを見下ろして、クリスティーナは低い声を落とした。プリムラは、出血による貧血のために青い顔でうつむいている。
 どう見ても苛めているとしか思えないが。先ほどのやり取りから、誰も何も言えなかった。
 いや。一人、勇気ある者がいた。
「鬼」
 幼いころから良く知っている声に、クリスティーナは、底光りするような微笑みと共に振り返った。
 王子だった。
「同じ目に遇いたいのですね? 間違いなく死にますわよ? まずは斧でぶった切る所から始めなければなりませんもの」
 王子はゆっくりと首を傾げる。
「見たままを正直に言っただけだろう。魔女の教育方針は方針として、私から見たら鬼だぞ」
「だって魔女ですもの。坊や?」
「お前たち、仲良くケンカしてる場合か?」
 医師が複雑な表情を作っていた。
「いいから早く開けたらどうだ、クリスティーナ。時間ばかり食っているのではなかったのか?」
 クリスティーナはあっさりうなずいた。
「そうだったわね。しょうがない子ほど可愛いものだから、つい構ってあげたくなるのよね。さ、開けなくては」
 王子の反応も見ずに、クリスティーナは扉に向き直った。鼻歌交じりで扉に両手をかざす。
「勝ち逃げされたような気がするのは、私の気のせいだろうか」
 憮然とした表情でつぶやいた王子に、フローレンスは微苦笑した。
「仲がよろしいのですね?」
「え?」
 王子は、フローレンスの言葉に耳を疑い、凍りついた。
 暖かい「見守り」の微笑みを浮かべるフローレンスがいた。王子は、その微笑みに対して、とても嫌な予感をおぼえた。
「ちょっと待って欲しい、フロラ。あなた、まさか、私がクリスティーナを」
 その時、目の前に立ちはだかっていた大きな鉄の扉が、光を発しながら消えた。
「開きましたわよ!」
 その声に、王子の問いは中断させられた。クリスティーナがさっさと扉を開けたことを、王子は恨めしく思った。わざと、今開けたんじゃないだろうか、とさえ思った。
 しかしその甘酸っぱいような思いも、襲いかかるように立ち込めてきた生臭い臭気によって中断した。
「う、」
 王子は、顔をしかめた。
「何の臭いだ、これは」



←もどる次へ→



作品紹介へ inserted by FC2 system