プリムラは、かすかにうなずいた。
「どういうこと?」
さらに問うと、プリムラは息を吐いた。
「人が来たときに…… 」
「ああ」
クリスティーナはそれだけで理解した。
「つまり、魔女だと知られて、誰かが殺しに来たら反抗しようと思っていたのね?」
プリムラは黙っていた。
「馬鹿なガキね。そんな大掛かりなことをしたら、人ではなくて、魔法使いが相手になるのよ。確実に仕留められるわ。そうやって、数え切れないほど、死んでいったのよ」
プリムラの重い吐息が響いた。
「どうすればいいのよ、じゃあ」
くぐもった呟き声に答えたのは、
ガツンという、拳骨だった。
「どうすれば、ですって? 死ぬか魔法使いになるか、どっちかよ! 隠れて生き延びる算段をしている暇があれば、王宮でもどこでもいいから、魔法使いになりたいと叫ぶのよ。私たちは聞き漏らさないわ。話は終わり! 行くわよ!」
クリスティーナはプリムラを引きずって、ネズミとトカゲの死骸の海をずんずん歩き出した。
「毒のある化粧室はどこなの! さっさとお言い!」
ネズミとトカゲを蹴散らし、カボチャを飛び越えて、クリスティーナは行ってしまう。
「い、行くのか?」
王子は、引きつっていた。
「ものすごい臭いだが」
隣に立つ医師は、クリスティーナの勇姿を息を呑んで見つめている。
「ううむ。クリスティーナに任せておいた方がいいような気がしてきた。こんな風景は、生理的に受け付けん」
フローレンスは、消極的な二人を見て、口を開いた。
「お二人とも、ご無理なさらずに、ここで待っていてください。私は行きます。クリスティーナさんを呼べば、きっと戻って来て連れていってくださいますから、」
「え!?」
二人そろって声を上げた。そして二人とも視線を泳がせながら答えた。
「いや、フロラ、あの、私は、行かないとは言ってないから」
「そ、そうだよ。じゃ、じゃあ行こうかな……」
二人は、おそるおそる、城の中に足を踏み入れた。
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