シンデレラ2

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

64 終の棲家5

「ううう、」
 ぐちゃあ、という音と、ぐんにゃりした足下の感覚に、医師は顔をしかめて声を漏らした。
 王子に至っては、口中で祈りの言葉を紡いでいた。
「天にまします我らの神よ……」
「無理なさらないでいいのです、王子、」
 真っ青な王子の顔を心配して、フロラはそう言うが、王子は強く首を振った。余裕を見せようとして、ひきつりながら無理に笑おうとしている。
「ハハハ、無理なんか、してないよ? 大丈夫大丈夫、」
「ごめんなさい。私が足にケガさえしていなければ、こんなところ、走って行けますのに」
「こんなとこ、走っ!? ハ、ハハハ! フロラに平気な場所を、私が平気じゃないはずないじゃないか」
 平気なのかそうでないと言いたいのか、もはや動転して王子はわからなくなっている。
「お医者様! ちょっと来て下さる?」
 もう階段の所にたどりついたクリスティーナが、大声で医師を呼んだ。
「なんだクリスティーナ!」
 大声というより、ほぼ悲鳴に近い声色で、医師は返事をした。心の中では「呼ぶなよ!」と思っているに違いなかった。踏み進むしかないネズミとトカゲの柔らかさに、瞳が涙ぐんでいる。
 クリスティーナが矢のように鋭い声を投げて来た。
「人が倒れているのよ! 生きてるかどうか、わからないわ!」
「何!?」
 医師の顔が豹変した。
「今行く!」
 情けない顔を、張り詰めた凛々しい表情に一転させて、医師は駆け出した。ネズミうんぬん、のことは、頭から霧散していた。
「行ってみよう」
 王子はフロラと顔を見合わせて、医師の速さには及ばないまでも、走りだした。



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