シンデレラ2 後日談3
axia 〜 天女降臨/魔女墜落 〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

3 男泣き

「ううむ。これで、3度、計算しなおしたんだが……」
 ファウナ王子は、王宮の職場で、同僚の技師たちと、うなっていた。
 日は西に傾き、まもなく夕刻。
「たしかに、3度目。なのに、間違ってないな?」
「ああ。土木部建築課技師長たる俺の名にかけて」
「いや。お前の肩書きは、今はいいよ」
「そうか。そういうことならば、今後、お前が俺に提出した設計書の確認印は、押さない方向でいくぞ」
「何を言ってる。今は、だ。今は」
「ともあれ。計算は合っている」
「うむ。合っている」
「だが、だ」
 各々、同じ「設計書」を抱えて、ついでに頭も抱えた。
「なら、何故、あんなことが起こる?」
「謎はそこだ」
「合っているよな?」
「おのおの、3回は計算し直したな?」
「そうとも」
「では、また徹夜か? 4度目の洗いなおしか? 俺たちにできるのは、それしかない」
 洗い直し、という言葉を耳にした途端に、一同は憎しみをこめて、設計図をぎりぎり握りしめ、大机に突っ伏した。
 そして、口々にこぼした。
「勘弁してくれよ……」
「これで、三日、三日も、泊り込みだよ」
「あいたいよ……フロラぁ」
 ついに漏れた、王子の言葉。
 それが、耳に入ってしまった、隣に座る、大学の同級生兼仕事場の同僚は、「やめろよ」と悲痛な声を漏らした。
「お前だけじゃないんだぞう、新婚家庭は。うう、エレナ、」
「やめろよ。今、こんな状況で、奥さんの名前言っちゃうの、禁止」
 土木部建築課技師長たる三十路の男が、さえぎった。
「皆、結婚してから、何年と経ってないんだ。止せよ、」
 技師長の言葉に、皆、逢えない愛しの妻を思い出し、なんと泣き出した。
「くそ、リナー」
「ジュン……」
「リオンヌ、ああ、リオンヌ」
「皆、泣くな。士気が下がる。……うううッ、ミドリさん、う、う、」



←戻る ■  次へ→

inserted by FC2 system