「野太い忍び泣きが、なんとも哀れで、爽快ねえ。フフフフ」
しめじめと聞こえてきた男泣きを、金銀の美しい髪ともに、指で背後にかきやりながら、クリスティーナは嗤う。
「可笑しいったらないわね」
王宮は土木部建築課の扉を、左に見やりながら、魔法使いは、悠然と廊下を歩いていく。
これから、王に会いに行く。
けっして魔法は使わずに、歩いて。
王は魔法を恐怖するからだ。
それ以上に、魔法使いを恐怖するからだ。
「ああ。でも、これでは、フロラの方も、やはり寂しがっているでしょうねえ?」
顔を少し左後ろに向け、王宮一の魔法使いは、三歩後ろを歩く弟子を見て、嗤いかけてやった。
「そうは思わない? 弟子?」
「……」
弟子は、無表情でうなずいた。
「そうでしょうね」
「ほーう。否定しなかったわね。仕方ないわねえ」
一転して機嫌が悪くなった声と一緒に、師匠は、握りこぶし大の茶色の石を、弟子の顔をめがけて、投げつけた。
「くれてやるわ。その石を、磨きなさい」
「!?」
弟子は、それを左手で受けて、異様な重さに驚く。ただの石くれにしか見えないのに、まるで鋼鉄の塊のようだった。
「ちょっとでも動揺したら、やらないつもりだったけど?」
心底憎らしそうに、クリスティーナは、害意に満ちた微笑を浮かべた。
「本当に、面白くないこと」
「何よ、これ?」
師匠は、嬉しそうに笑った。
「さあ?」
「何のつもりなの?」
「教えないわ」
行くわよ、と、言い置いて、クリスティーナは、颯爽と歩き出す。
振り返らない。
プリムラは舌打ちをして、師匠に従って行くほかなかった。
左手に寄越された、ひどく重い石。
魔法の香りがした。
かいだことのない、甘い香りが。
弟子は、眉をひそめた。
これは、一体、何?
「捨てたら、ぶっ殺すわよ?」
背後も見ず、師匠は、愉快に言葉を投げた。
プリムラは、舌打ちした。
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