「きっと、今日も唄ってるわね」
フロラは赤ん坊を抱きなおすと、窓外の茜空を見つめて、微笑んだ。
父が遺した子守唄。
「父様、子守唄は、みんなが唄うようになったよ」
空につぶやいて、フロラは、機嫌良く笑っている娘に、「ね?」と声を掛けた。
「あなたも、おじいちゃまの歌、大好きだものね?」
そこに、夫が帰ってきた。
「ただいまー」
小さな女の子を連れている。
「お帰りなさい、ファウナ。こんばんは、プリシラ」
「こんばんは、フロラ様」
きちんと礼儀正しい女の子に、若い母親は苦笑した。
「小さなあなたから丁寧に呼ばれるのは、慣れないわね」
「どうかお気になさらないでくださいな」
「ええ。努力するわね」
「ハハハ」
ファウナは明るく笑いながら、プリシラの髪を撫でた。
「『姫君にお会いしたい』っていうから連れてきた」
「では、夕食も一緒にいかが?」
「いいえ」
プリシラは首を振った。先ほどまで空色だった髪が、徐々に色を変えてきた。
「家で、ママ……母が、待っておりますから」
小さな魔法使いの素直な言葉に、フロラは微笑んだ。
「そうよね。まだママが一番。それを聞くと、ほっとするわ」
プリシラは照れて頬を赤らめた。
「今日は一度もお会いできなかったので、挨拶にまいりましたの」
日が沈む。
魔法使いの髪が、月の光のように優しい金色に輝いた。
「ご機嫌麗しゅう、アクシア様」
完
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