「いつまで寝ているつもりなの!」
早朝。
小鳥の歌声。
白みかげ石で造られた明るい色の屋敷。
みがきあげられた天窓から朝日が射し込む部屋。
柔らかな乳白色の壁紙。
雪の結晶のように繊細なレースのカーテン。
霧にかすんだ草原のような薄緑の、長い毛足のじゅうたん。
小さな花々が彫刻された、やさしい雰囲気の木の家具。
水鳥の羽毛が詰められた絹の寝具。
その中で、大きく響き渡る怒鳴り声だけが、異質だった。
「!」
フローレンスは、驚いて飛び起きた。
辺りを見回す。
この部屋には、彼女一人しかいなかった。
つまり、彼女に対する言葉ではなかった。
安堵と共に、苦笑が浮かぶ。
過去の記憶を思い出して、ふっと重く息をついた。次に、今の環境を思い返して、少し微笑む。
フローレンスことフロラは19歳になった。朝の清冽な空気のように白い肌。ゆるやかに波打つ白金色の長い髪。北の海のように深い青の瞳。
薄い色彩の部屋が良く似合う、きれいな乙女だった。それだけでなく、瞳の奥には知性の光が宿っている。
そのフロラは、急いでベットを出た。
雪白の絹布で丁寧に作られた寝間着に、溶けない氷のような薄水色をした上着を羽織り、部屋を出る。
そして、右隣のさらに隣の部屋へ向かった。
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