シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

10 時計室の前

「兄さん」
 時計室の扉の前で、ファウナ王子は兄に会った。
 兄は、王族としての地位を捨てて、王立病院で医師をしている。
「ファウナじゃないか」
 兄弟は、お互いに不思議そうな顔をした。
「どうしたんだ? こんな早くに」
「兄さんこそ」
 まず王子が答えた。朝だというのに元気が無かった。
「僕は……、歯車の調子を見に来たんだ」
 弟の様子を不審に思いながらも、今度は兄が答えた。
「そうか。私は当直明けだ。差し入れにケーキをもらったので、クリスティーナにでもやろうかと思って」
「え?」
 王子は少し目を見開いた。
「クリスティーナなら、今日は来ないよ?」
「なに? 本当か?」
 兄は瞬いた。
 王子は意外そうな顔をした。
「知らなかったの? 昨日から、王宮の外でプリムラをいびり……もとい、修行させてるんだ」
「そうだったのか。仕事が忙しくて、しばらくクリスティーナに会わなかったからな」
 兄は、苦い顔になった。
「弱ったな」
 そして、紙袋を持ち上げた。
 袋の中身と、もらった経緯を話して、医師は渋い顔をする。
「どうしようか。家に持ち帰ってもな……」
 弟は助け舟を出した。
「フローレンスとなら午後から大学で会うけど。彼女を通して渡そうか? 時間がかかるけど、それでよければ」
「そうか」
 弟の申し出に、兄はほっとして微笑んだ。
「では、お願いしよう。皆で食べてくれと伝えてもらえるか?」
「わかった」
 兄弟は、そこで別れた。



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