「ええ。ありがとう」
フロラは恥ずかしそうに微笑み、鍋つかみをはめて、鉄板を取り出す。
重石を乗せられた、甘い香りのする食べられる器が、いくつも並んでいる。重石を取り除いて、バターの香り漂うタルト皮だけを、今度は金網の上にのせて冷ます。
「何、作ってるの?」
愛想も何も無い、ぶっきらぼうな問いかけに、フロラは優しく微笑みながら答える。
「果物のタルトよ。食べたことあるでしょう?」
「あるわね」
そっけないうなずきが寄越される。
それを微笑みがふわりと受け止める。
「食べてみる?」
「くれるの?」
「ええ」
フロラは、冷ましてあるタルト皮を取って、カスタードクリームを乗せた。
「果物はどれがいい?」
見上げて微笑みかけると、魔女は目をそらした。
「……なんでもいいわ」
「じゃあ、イチゴが新しくておいしいから、それにするわね」
真っ赤に熟した瑞々しい小ぶりのイチゴを、なめらかな卵色のクリームの上に五つのせて、香りの良い酒で解いたジャムを塗る。
できあがったイチゴのタルトを、フロラは微笑みと共にさしだした。
「はい」
白い可憐な手から、美しい指が受け取った。
魔女は、ひどく言い難くそうにつぶやいた。
「……ありがと」
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