「え?」
継姉に言われたことと、自分の感覚とが合致せず、フロラは戸惑った。
「でも、私はただ寂しいだけだわ」
「御託は結構よ」
プリムラは、フロラを追い払うように、手を振った。
お湯が沸騰してやかんのふたが踊り、白い蒸気が上がった。
火を消して、プリムラは冷然と言った。
「さっさと大学に行って、返事をしてらっしゃい」
「でも」
フロラは、初めて泳がされる子どものように、逡巡する。
魔女はいらいらと言葉を重ねる。
「早くしないと、ファセットの魔法使いのガキに持っていかれるわよ?」
「でも……」
それでも動こうとしないフロラを見て、プリムラは舌打ちした。
「全く!」
プリムラはフロラを引き寄せて、抱きしめた。
「幸せになるのよ」
「プリムラ?」
とまどった声を残して、フロラは消えた。
「ああ。これもだったわ」
不機嫌に低くつぶやくと、プリムラはタルトの入った箱をつかんだ。
箱も、プリムラの手の上で消えた。
厨房には、魔女一人と、いくつかの作りかけのタルトと、甘い香り、そして、今まで近くにいた微笑みの記憶が残った。
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