シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

104 恋の終わり 恋の始まり

「え?」
 継姉に言われたことと、自分の感覚とが合致せず、フロラは戸惑った。
「でも、私はただ寂しいだけだわ」
「御託は結構よ」
 プリムラは、フロラを追い払うように、手を振った。
 お湯が沸騰してやかんのふたが踊り、白い蒸気が上がった。
 火を消して、プリムラは冷然と言った。
「さっさと大学に行って、返事をしてらっしゃい」
「でも」
 フロラは、初めて泳がされる子どものように、逡巡する。
 魔女はいらいらと言葉を重ねる。 
「早くしないと、ファセットの魔法使いのガキに持っていかれるわよ?」
「でも……」
 それでも動こうとしないフロラを見て、プリムラは舌打ちした。
「全く!」
 プリムラはフロラを引き寄せて、抱きしめた。

「幸せになるのよ」

「プリムラ?」
 とまどった声を残して、フロラは消えた。
「ああ。これもだったわ」
 不機嫌に低くつぶやくと、プリムラはタルトの入った箱をつかんだ。
 箱も、プリムラの手の上で消えた。
 厨房には、魔女一人と、いくつかの作りかけのタルトと、甘い香り、そして、今まで近くにいた微笑みの記憶が残った。



←戻る次へ→

inserted by FC2 system