師匠は、深呼吸よりも長大なため息をついた。
「最初に言ったでしょう? 『自立しちゃって面白くない』って」
さらに、目を座らせて眉を寄せ、無念そうな顔になる。
「昨日は魔女殺しの呪いをしのいだし。今しがたは、」
そこで言葉を切ると、魔法使いは、ひどくいまいましそうに、苦く、渋く、嫌そうに言った。
「まあ大変良くできました。自分の欲望をかなえるより、フロラの幸せを願ってくれてありがとう良い子ね」
どうやら、クリスティーナはプリムラを褒めているらしい。が、口調はイバラの大群落のように刺々しい。だから、非難しているようにしか聞こえない。
案の定、弟子は、師匠の意図がさっぱりわからなかった。
プリムラは眉をひそめる。
「何が言いたいの? 訳がわからないわ?」
師匠は、面倒そうに不機嫌顔で言う。
「魔女の卒業試験に合格したってことよ。自分を殺す呪いをしのいだ。そして、歪みの原因になる「自己耽溺」を乗り越えた。あなたはね、魔女の体も心も克服したの。だからとりあえず、もう歪まないわね」
ああ面白くないこと。と、クリスティーナはこぼした。
そして、指折り数える。
「最初に自己流の魔術を全部封じて、その後毎日毎日世界各国津々浦々の火山氷原海溝樹海峡谷砂漠氷河洞窟洞穴珊瑚礁、山火事地吹雪竜巻地震雷、あらゆる場所と天変地異の只中に放り込んでやったのに、一々憎たらしく生還してきたものね。どうして死んでくれなかったのかしら? まあよく頑張ったわ」
言い終わると、プリムラを見下ろして、冷笑した。
「ということで、一応、あなたは魔法使いよ。一応だけどね。ファセットのガキと同じ程度のね。追い出してやるから、これからは自由にのんきに生きるも良し」
それとも、と言葉は続く。
クリスティーナの銀の目が、少し真面目な光をおびた。
「あなたが『ここにいさせて下さい』と額づいてお願いすれば、もっと鍛えてやるけど?」
|