「転んで頭でも打ったのか? ガーネット」
広場の方に降りる階段の踊り場で、王子は腰に手を当てて、首を傾げた。日曜で講義がないため、眼下の広場にもこの階段にも人はいない。
「白昼堂々素顔でいるとは。世間に正体を明かしてどうするんだ? 家にいられなくなるぞ?」
王子は上がり側の階段のきわに立ち、手すりをしっかり握っている。昨日は彼女から突き落とされたので、用心に越したことはない。
「ふふふ」
幻の姫は、赤いの唇から白い歯を見せて嗤った。真紅の薔薇に真珠をこぼしたようだった。彼女は踊り場中央に悠然と立っている。
「今の姿を見ても、わたくしがファセットのガーネットだなんて、誰も気付きませんわ。ファセットの長女は、温室の小さなバラのように可憐で優しげな令嬢ですもの。それに、今日は一人でまいりましたので、誰の目も気にすることはありません」
胸元が大きく開いた銀のドレスをまとった、銀の目の少女は、銀の刃のように鋭く美しく微笑んだ。
「昨夜の舞踏会では、他の皆様方の目もありましたから、少々しとやか過ぎました」
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