シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

111 求愛

 王子は、苦い顔でこぼす。
「うそをつけ。昨日だって、お前一人だけ、笑い方が邪悪だったぞ」
 いまだ一六歳の少女は、成熟した女性のようにまろやかに笑った。
「ほほほ。そうですか? でも、」
 言葉を途切れさせ、ガーネットは微笑みに毒気を混ぜた。
「今はそうおっしゃられても、私の虜になったが最後、どんな目に遭わされても、甘美な酔夢になりましょう。楽しみだわ」
 王子は、ただ肩をすくめて、無言でやり過ごした。
「あら? 私にはできないとおっしゃりたいの?」
 ガーネットは婉然と微笑む。笑い方は上品だが、瞳の奥には烈火のように激しい光が揺れていた。
 王子はうんざりした表情になる。
「いいや。どこの魔法使いも似たような性格だなあと思ってな。嫌になっただけだ」
「当たり前ですわ。魔法使いですもの」
 王子は魔法使いに呆れられた。
「ホホホホホホ! おかしな王子様! 何をおっしゃるのかしら!」
 幻の姫君は腹を抱えてしこたま笑う。
「従順な魔法使いや気弱な魔法使いなんて、いるはずないでしょう? 私たち、魔法使いになる前は魔女ですもの」
「ああうるさい。似たような言葉を、クリスティーナから嫌になるほど聞かされた」
「ではあきらめて私の虜におなりくださいな?」
 口調だけは子猫のように愛らしい。
 王子は毒虫にたかられたように顔をしかめた。



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