シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

113 魔女の初恋

「他人のことより私のことですわ」
 ガーネットは、その場でくるりと一回転して、ドレスのすそを広げて、ダンスの前のように、優雅にお辞儀をしてみせた。
「ファウナス王子様」
 素性を隠して令嬢でいるときの、可憐な微笑みを口に描いた。
「私はずっとあなたに恋をしておりますの。小さなころは、王宮に上がって、大人たちの垣根越しにあなたを見つめるのが、不自由なわたくしの唯一の楽しみでした」
 王子は苦笑する。
「幼少のあなたは人形のようだったな。病弱な令嬢が大切に守られているのだと思っていたら、実は、魔女という正体を隠すための策だったらしいが。ともあれ権力者のファセットがそのようだったから、他の家も迎合してしまった。どの家も同じような箱入り娘を作り上げた。お陰で、私の中には、『令嬢とは、泣きも笑いも走りもしない、着飾った女の子』という固定観念が出来上がってしまった。一人を除いて」
「ふふっ!」
 最後の一言は聞こえなかったように、ガーネットはことさら明るく笑った。
「わたくしの夢は、舞踏会ではあなたの誘いを受けて踊り、やがてあなたから愛の言葉をささやかれ、そしてあなたのお妃になることでした」
「ちょっと勝手過ぎないか?」
 ファウナ王子は表情をこわばらせ、階段を後ろ向きに一歩上った。つまり一歩後ずさった。
 ガーネットは二歩前に出る。
「いいえ。多くの令嬢たちがごく普通に見る夢ですわ」
 もっとも、と、深窓の令嬢は続ける。
「多くの場合、夢は夢のままで終わりますけれど」
 笑みが冷たくなる。
「でも。わたくしは魔女。幼いころは、それゆえに自由のない生活を強いられておりました。でも今は魔法使い。それゆえに、私は自分の願いを自由にかなえられるのですわ!」
 歌うように言い放ち、ほとんど飛びつくようにして、幻の姫君は王子に抱きついた。



←戻る次へ→

inserted by FC2 system