「待て! 私の意志を無視するな!」
引きはがそうとするも、ガーネットの腕力は、王子のそれよりはるかに勝っていた。
「わたくしの愛情の前では、あなたの気持ちは無意味です!」
それは、恋の駆け引きに相応しい心とろかすような優しい触れ合いとは、対極にあった。命のやり取りをするかのような、激しいつかみ合いだった。
「それは恋愛とは違うのではないのかっ? はなせ!」
王子は魔法使いを自分から引きはがそうとし、魔法使いは王子に組み付こうとする。
「あら。口が達者ですこと!」
「まあな! クリスティーナから否応なく鍛えられているからな!」
「その腹立たしい名前は聞きたくありませんわ!」
ガーネットは声を荒げた。
「彼女のせいで、わたくしは昨夜……!」
「あいつの被害に遭ってるのはお前だけじゃないぞ!」
当然の反論をしたところで、王子は、薄紫色の目を大きく見開いた。
「?」
王子の目の前、踊り場のところに、人が出現したからだった。
王子にしがみついている魔法使いは、気配を察知して背後を振り返った。
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