ファセット家の令嬢ガーネットは、ほんのり頬を赤らめて、すずらんのように優美にうつむいた。うぶな少女のように。
「ガーネット様?」
今ひとつ状況がつかめなかったフロラは、声を掛けられて初めて、彼らが誰であるかここで何をしていたかを、理解した。
顔色を変えたのは王子だった。
「たちの悪い冗談を言うな! ガーネット!」
王子は、他に注意を移した魔法使いの魔の手から逃れ、叫んだ。
「ひどい。冗談ですって?」
ガーネットは、風に吹かれて落ちる桜の花びらのように、はらはらと涙をこぼす。
王子は、美しい少女魔法使いを、いつ飛び掛かってくるかわからない猛獣であるかのように警戒しながら、階段を降りて、フロラとガーネットの間に立った。
フロラをかばうようにして背を向けて
「良くもまあ、わざとすぐに泣けるものだな?」
令嬢は、はかなげに顔をうつむけて、透明な涙を流す。
「なんてつれない方なのでしょう。『わたしの愛情の前では、あなたの気持ちは無意味だ』とおっしゃって抱きしめてくださったのに。あれは嘘でしたの?」
「それをしたのはお前だろう! 嘘をつくな!」
王子は、魔法使いの少女の厚顔に、めまいを覚えた。
「まったく」
ガーネットを睨んで、彼女からまるで反省していない笑顔を返され、顔をしかめた後、王子はようやく振り返った。
「ごめんねフロラ。今日もガーネットが来ててさ」
苦い顔だった王子は、苦笑混じりに振り返った。
しかし、すぐに表情を取り落としてしまった。驚きのあまりに。
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