シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

12 悩む王子2

「フロラが自由になってから、まだ一年も経っていないじゃないか。何よりも、彼女は研究の方にこそ楽しさを見出している」
 そして、フロラは私のことを、幼いころの遊び友達で、教授の教えを受けた同士、と考えている。愛や恋の対象ではなく、大切な仲間なのだ。
 そんな私から告白されたら、驚くだろう。
 彼女にとっては予想外のことに違いない。
 私の告白に悩んで困惑して、また笑顔が消えるかもしれない。ようやくまともな環境を得て、笑えるようになったのに。
 フロラのきれいな微笑みが、心に浮かぶ。
 フロラ……。
 最近は、ずっと舞踏会に同伴してもらっている。縁談に追い回されて辟易している私を助けるために。純粋な思いやりで。
 そうだ。仲間に対する思いやりだ。
 だから。
「まだ、驚かせるのは可哀想だ」
 だがしかし、フロラの方だけでなく、王子側の問題もあった。
 そろそろ縁談を断ることに限界がきつつあるのだ。
 自分で決めなければ、やがて、そう遠くないうちに、周囲が強制的に相手を決定するだろう。
「不自由だな……」
 王子はつぶやく。
「ほっとするのは、この部屋にいるときだけだ」 
 最近は、ここ時計室が王子の避難所になっていた。
 自室にいると、侍従長から叩き出されてしまう。「若い者に、平安は必要最小限でいいのです。外で学ぶべきことが沢山あるのですよ?」と言われて。
 以前は、そんな王子の逃げ場所は、魔法使いクリスティーナの部屋だった。そこに行けば、どんな令嬢も親族たちも、怖がって近寄ってこなかった。魔法使いからのいじめはあったが。
 しかし、フロラが城から助けられて以降は、魔法使いは部屋に逃げ込んでくる王子をすぐさま追い出すようになった。「迷惑ですから出て行ってくださいな。それとも、わたくしをあなたの妃にしてくださいますの?」と言って。そこまで言われたら、近寄れない。
 だから、無人の時計室が、大好きなからくりのある時計室が、幼いころからの憧れだった教授の遺作のある時計室が、王子の逃げ場になった。唯一の。
 だが、こうして、時計室に隠れる自分は、情けない。
 そうは思うが、行き場所がない。人がいるところに行けば、もれなく縁談がついてくる。
「気が塞ぐ。一体、どうすればいいのだろう」
 王子は、歯車を見上げる。楽しそうにこの部屋を造っていた教授の顔を思い出しながら。
 物理的には教授に、心理的には教授の娘のフロラに、自分は今守られている。
 王子はためいきをついた。



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