「みんな自立してしまったわ」
魔法使いが再び現れた。
美しい魔法使いは、今度は、複雑な表情も沈んだ表情もしていなかった。
休日の午後の病院。医師は、まるで患者が来ないので、暇にまかせて医局で医学書を読みふけっていた。助手は診察室で待機している。
現れた魔法使いを見るなり、医師は怪訝そうに眉を寄せた。
「なんで今度は笑ってるんだ?」
魔法使いは、フフフ、と含み笑いを浮かべる。
「だって、楽しいのですもの。もう、子供だからと手加減する必要がなくなったのよ」
「何だと? 今まで、手加減していたのか!?」
愕然とする医師に、魔法使いクリスティーナは慈愛に満ちた微笑みまで浮かべて大きくうなずいた。
「ええそれはもう」
冗談なのか本心なのか判別つかないが、どちらにせよ恐ろしい。
医師は、その言葉には「そうか……」とだけつぶやいた。
「それで、では今回は喜びの報告というわけか?」
苦く辟易した顔でそうたずねると、クリスティーナはにっこり笑った。
「ええ」
「暇なのかクリスティーナは」
王宮付きの魔法使いは、片頬で嗤った。
「暇なのはあなたの方でしょう? 閑古鳥が鳴いてるようね?」
医師は、読んでいた医学書を閉じた。
「こういう日だってあるさ」
のどかな雰囲気の混じる反論は、皮肉気だが棘のない微笑みで応じられた。
「そう」
医師はだまって、魔法使いを見つめた。
まじめな顔で。
クリスティーナは可笑しそうに嗤う。
「どうしたの? 黙り込んじゃって」
それでも、医師は、魔法使いを見つめた。
「変な坊やね」
魔法使いはさして不快そうな顔も見せずに、笑っている。
そして、しばらく後、医師は口を開いた。
「クリスティーナ、薬剤をつくって欲しい」
途端に、魔法使いの表情が曇った。
「私は休日なの。当直の薬剤師さんに作ってもらえば?」
医師は首を振る。
「いや。あなたでないと駄目だ」
魔法使いの表情は、不機嫌を極めた。
「明日にしてちょうだい。急ぎじゃないんでしょう? 暇な当直医さん?」
医師は断固として応じない。
「今つくって欲しい」
「薬剤師さんに頼みなさい」
「彼らには創れないものだ」
クリスティーナは、表情を改めた。
少し真顔になる。
「ものによるわね。何を創らせたいの?」
医師は、
至極まじめに言った。
「媚薬」
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