シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

134 幸福なフロラ

 夜。フロラは、自室で、明日の講義に必要な教科書や筆記用具を準備していた。
 入浴を済ませ、白金の髪を下ろしている。
 白い絹布の寝間着を通して、浴湯に入っていた香草の安らかで甘い香りが、肌からただよう。
 フロラは、勉強机の上に置いてある、細い金の鎖のペンダントとそれに一緒に付けられた鍵を手にとった。王宮の紋章である金の鳩がつがいになっている。
 それを右手で包んで、渡し主の顔を思い浮かべながら微笑んだ。
 王子がくれたペンダントと父が託した鍵。フロラに幸福を運んだもの。
 そしてフロラは、今日のことを思い出す。手を取って、王子が、「愛しい人」と言った。
 フロラは頬を桜色に染めて、「ファウナ王子」と、ささやいた。
 心の奥に、風に乗って楽園の薔薇の花びらが一枚舞い込んできたような、うれしさと落ち着かなさが混じった気持ちになる。
 今まで、感じたことのない気持ち。
「父様。わたし、こんなこと、考えたこともなかったわ……」
 去年の今頃は、父の言葉だけが頼りの、今日を、今を生きることだけが目的の、毎日だった。
 それが今はどうだろう。大切な家族がいる。したかったことをしている。そして、恋することを知った。
 明日のことを、考えられるようになった。考えたいと思うようになった。
 ペンダントを手に包んで、フロラは、心から暖かいものが湧いてくるのを感じて、微笑む。
「ありがとう。父様、クリスティーナさん、プリムラ、……ファウナ王子」
 そして、フローレンスは、寝床に入る。明日の夢を見るために。



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