シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

15 大学

 大学は王宮の近くにある。
 広い敷地は明るい緑色のケヤキ並木に囲まれている。構内の通路は黄褐色のレンガが敷かれており、それ以外の地面は芝生が敷かれていた。
 学舎は、石、木、レンガ、など、それぞれが様々な建材で造られていた。

「一度、フロラのおうちに遊びに行ってみたいな」
 一時限目の講義「幾何学」が終わると、隣に座っていた女子学生がそう言った。
 五十人程度収容できる講義室の席が、半分くらい、学生でうまっている。ほぼ全員が、フロラの専攻している学科の同級生だった。そのうち、女の子は五人ほどしかいない。男子はシャツに長ズボン、女子はシャツに長いスカートをはいている。講義においては普通の衣服を着ているが、実験をするときは、男女とも同じ形の、薬品による腐食や、高い熱などから体を守る専用の衣服を身に着ける。
 相手は、フロラの目を見て、さっぱりと感じ良く微笑む。
「魔法使いのお家って、見たことがないんですもの」
 フロラは、軽く首を振って微笑んだ。
「秘密なの」
 女の子は、そう答えられるのがわかっていた。だから、特に気分を害した様子もなく、笑ったままうなずく。
「うん。いいの。そういう決まりだものね。場所もわからないしね」
 魔法使いの家がどこにあるのかは、誰も知らない。
 フロラも知らない。
 家の門を出ると、なぜか霧が立ち込めてくる。白い空気の中を歩いていくと、行きたいと思っている場所に着く。
 帰るときは、帰りたいと思ってしばらく歩いていると、やがて霧が出てきて周りの風景を消し去り、そして家の門に着く。
 どうして、魔法使いが住処を明かさないのかは、誰も知らない。
 人が魔法使いを恐れるから、魔法使いが気を使ったのか。それとも、魔女だった時に人から迫害されたので厭世的になり、そうしているのか。その両方の理由からなのか。それは、魔法使いにしかわからない。
 とにかく、人と魔法使いは住み分けている。
 人のいるところに魔法使いの家は無い。では、魔法使いの家はどこにあるのか? 人にはわからない。
「だけど、いつか見てみたいわね。ま、それは置いておいて。フロラ、二限目の『設計製図』の課題はしてきた?」
 女の子は話題を変えた。
「ええ。してきたわ」
「よかった。一か所わからないところがあったの。やりかた教えて?」
 二人は、学問の話に移った。



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