王子は、他の学生と一緒に、昼食を食べに行くところだった。
研究室を出て、廊下を歩く。
「昨日は驚いたわね」
大学院生の女性が、くすくす笑った。真っすぐな黒の長髪を、首の後ろでひとくくりにしている。緑色の涼しげな眼をしていた。
「まさかここに、着飾ったお嬢様方がいらっしゃるなんて。ススや油で、きれいな服なんかすぐさま汚れるのに」
「はは」
四年生の男子学生が、片頬で笑った。黄色の短髪をツンツンにたてている。赤い目が印象的だった。
「工学部棟って、轟音はするし火花は飛び散るし。……文学部の女子あたりからは恐れられているんだけど」
王子と同級生の、三年生の男子がおかしそうに笑った。
「本当本当」
彼は肩まで伸びたこげ茶の猫毛を、後頭部の高い位置でまとめている。好奇心に満ちたオレンジ色の目をしていた。
「隣に建ってる衝撃実験室なんて、もしも実験に手抜かりがあったら、建物ごと粉みじんになりますよね。あそこで使う火薬の量って半端じゃないから」
そこまで話すと、三人は目を見合わせて、同時にこう言った。
「こんな所に来るなんて、命知らずだよなあ!」
そして、はじかれたように笑い出した。
「ハハハハハ」
|