シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

2 朝の風景2

 全てが白みかげ石で造られた薄灰色の部屋。
 じゅうたんはない。
 そんな柔らかいものを、屋敷の主が彼女に与えるわけがなかった。唯一与えたのは、薄っぺらい寝具だけ。
「よくものうのうと寝られたものね! 起きるのよ!」
 朝も早いというのに、威勢良く響く女性の声だった。ここは石だらけの部屋なので、わんわん反響するほどだった。
 これが屋敷の主の声だった。
 空恐ろしいほど整った顔の女性だった。
 光の具合で白金にも白銀にも輝く髪。瞳は銀色。立ち込めた深い霧のように白い肌。眼下に影を作るほど長いまつげ。意志の強さを表し壮麗な外観を形作る目や鼻梁。紅を刷いたわけでもないのに、真っ赤な唇。
 そして、孔雀色の絹をふんだんに用いた長衣を着ている。
 その左手は、不機嫌な美女の襟首をつかんでいた。
 彼女は、何の飾りも無い、漆黒に染められた麻の長衣を着ていた。金髪に黒い服は良く似合っていたが、ひどく着心地の悪そうな、ごわごわした粗い布地だった。
「あんた、朝食当番でしょう! 何時だと思ってるの! 6時よ6時!」
 屋敷の主こと魔法使いクリスティーナは、部屋の主こと魔法使い見習いプリムラを、激しくゆさぶった。
「うるさいわね。静かにして」
 プリムラは弱々しい声を返した。
 顔色が、ひどく悪かった。
 まるで二日酔いのようだった。クリスティーナの言葉の内容よりも、音声それ自体にダメージを受けている様子だ。
 はあ……と、辛い息を吐いた。
「昨日のあれで、……起きられないのよ」
 小さく返った声を、魔法使いは一笑にふした。
「ハッ! 甘えるんじゃないわよ?」
 次に、うれしそうに冷笑した。
「あら? それとももしかして、昨日のしごきに根を上げてるんじゃないでしょうね?」
 さらに、哄笑した。
「ホホホホ! あれくらいで参るようじゃ、魔法使いにはとてもとても無理ってものよ。弱っちいガキねえ? 話にならないわ」
 その言葉を聞いた途端、プリムラのこめかみが波打った。
「誰も参ったなんて言ってないわ」
 炎をも凍りつかせるように冷たい声が紡がれた。
 襟首を取るクリスティーナの左手を振り払い、ベットを降りて自力で立ち上がる。
「どきなさいよ。厨房に行くんだから。……師匠」
 最後の、せんせい、という言葉だけが、ひどくいまいましそうだった。
 クリスティーナは、牡丹の花が咲くように麗しくにっこりと笑った。
「よろしい。そうそう、私はあなたの師匠なの。師匠の命令は絶対なの」
 微笑みはそのままで、魔法使いはあごで指示する。
「さっさとお行き」
 舌打ちしたプリムラは、勢いよく扉を開ける。



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