ただ一人、王子だけは笑えなかった。
自分には、笑う資格はないと思っていた。
大学に、王宮内の問題をもちこんでしまったからだった。彼女たちの目的は自分だった。
お妃選びが、遅々として進まないので、彼女たち「深窓のご令嬢」までもが積極的に動き始めた。
王宮にも頻繁にやってくるようになったし、ついに昨日は大学にまで来た。
王子は重く苦しい気持ちになっていた。
大学にまで来るとは。
おかげで、王宮とは関係のない者に迷惑がかかっている。学問をする場に、関係の無い私的いざこざが侵入してきた。それが心苦しい。
王子は、笑っている学生たちに、神妙に言った。
「本当に昨日はお騒がせしました。申し訳ない」
いつもは対等に話すのだが、今は丁寧に謝る。
同級生は、明るく首を振った。
「面白かったよ。よもや、工学部でドレスを着たお嬢様方が見られるとは思わなかった。しかしあのお嬢様たちの一日って、どんな感じなんだろうな? 浮世離れしてるんだろうな。観察してみたいなあ」
四年生は含み笑いを浮かべる。
「そうそう。ただ、もし、彼女たちが実験事故に巻き込まれて負傷したり死亡した場合、多額の賠償金は誰が払うのかなあ、とか思ったけれど」
大学院生は真面目な顔で振り返って、後ろを歩いている王子の方を向いた。
そして、からかうような笑みを浮かべる。
「ここは王立大学だから。国庫か、王の懐から出されるのよ。お嬢様方だから、単価も高いでしょうね。支払う側はお気の毒にね。予想外の大出費よ」
そしてにっこり笑った。
「どうぞ気にしないで。面白かったから」
王子は、苦笑した。
「あなたたちは、何でも興味の対象にしてしまうな」
|