シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

29 ダンスをご一緒に

 階段の踊り場で、王子は、夢のような姿の乙女たちにちやほやと取り囲まれる。
 王子の背と壁との間には、フローレンスが立っていた。
 さりげなくフロラをかばっている。
「せっかくいらしたのに、心苦しいのですが……」
 王子は、五月に咲くあやめのように、上品に凛然と微笑んだ。
「研究の途中なのです。誘いを受けられなくて、残念です」
 乙女たちは、花木をそよがす春風のように微笑む。
「まあ。お勉強の途中でらっしゃたのですね」
「お邪魔をして申し訳ありません」
 満たされた環境で育てられた令嬢たちの、ふんわりした微笑みだった。
 その乙女たちの真ん中にいた、薄茶色の巻き毛の令嬢が、にっこりと首を傾げた。
「では、今晩の舞踏会はいかがでしょう?」
 周りの乙女もうなずく。
「そうですわ。王子様。舞踏会で、わたくしたちとご一緒していただけませんこと?」
「私、ワルツをご一緒させていただきたいわ」
「わたくしは、スローフォックストロットを」
 王子は、微笑みながら首を振った。
「麗しい令嬢方、重ね重ね申し訳ない。常より言っていますが、私は、ダンスの相手は一人と決めています」
 乙女たちの表情から、花咲く微笑みが消えた。
 しおらしくうつむく。
「そうですの……」
 乙女たちは、残念そうな顔になって、お互いの顔を見合う。



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