シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

36 令嬢の正体2

「ホホホホホ!」
 ガーネットは高らかに笑う。厚めに塗ったおしろいにヒビが入りそうなほどに。
 王子は笑い続ける令嬢のことは無視して、驚いて声も出せないでいるフロラに、申し訳なさそうに言った。
「ごめんねフロラ。彼女、魔女なんだ」
 フロラの青い瞳が、まるで湖に小石を投げ込んだように揺れた。
「魔女……?」
「違います。魔法使いですわ?」
 ガーネットが、唄うように抑揚をつけた声で、話に割って入ってきた。
 そして、フロラに向かって、ゆっくり艶然と微笑む。
「実はそうでしたの。でも、秘密ですよ? フローレンス様、以後、どうぞご注意くださいませ」
「幼いころは人形のようにおとなしかったのに。変われば変わるものだな」
 王子は、ガーネットの顔を見ずに、うんざりとつぶやく。
「まあ。ひどい人」
 ガーネットは耳ざとく聞きつけて、にっこり笑う。微笑みの前に、一瞬だけ、表情がかげったようだった。
「人形だなんて。私だって、好きでおとなしくしていた訳ではないのに。魔法使いになって、ようやく、本当の私になれたのですわ?」
 少女は、顔を背けている王子を見つめて、言葉を重ねる。
「私も、幼いころのフローレンス様のように、あなたと親しくなりたかった。そのために、わたくしは魔法使いになったのです」
 王子は泥を食べさせられたような顔をした。
「かんべんしてくれ。魔法使いは王宮にいる分で十二分に辟易している」
 魔法使いは、王子の言葉を聞くと微笑みを引っ込めた。
「そうですの」
 そして、ふふ、と嗤った。
「そんな冷たいことをおっしゃるのでしたら、二人仲良くここから突き落としてさしあげますわ」
「止せよ!」
 王子は構えるが、
「わたくしに命令しないでくださいまし。わたくしは、誰の指図も受けません」
 可憐な令嬢は、王子ともみあうこともなく、信じられない強い力と素早い動きとで、手を握り合っている二人を階段から勢い良く突き飛ばした。
「ホーホホホホ!」



←戻る次へ→

inserted by FC2 system