令嬢の表情は、しだいにうっとりしてくる。
「わたくしって、なんて幸運なのかしら。私好みの年上の王子様がいらっしゃるのですから。王子様を篭絡して妃の座におさまり、傾国の美女として贅の限りをつくせるのですわ」
そして、階段を下りようと、右足を一歩踏み出した。
「ファウナス王子。まわりくどく言い寄るのはもう止しますね? 今この場で色目を使って、てっとりばやく、あなたを私のとりこにしてさしあげます」
可憐な彼女の、輝く小さな水晶の靴が、工学部の階段に乗せられる。
が。
滑った。
「きゃああああ!」
ガーネットは、階段から転落した。
その様は、まるで花期を終えて木上から落ちていく薄桃色の椿のようだった。
しかし、音にはまるで情趣がない。
ドガガガガ、という転落音と、ベシャッという激突音。
魔法使いガーネットは、顔から派手に落ちた。
「大変! ガーネット様!」
フロラは顔色を変えるが、
「いいのよフロラ。彼女は魔女だから」
可愛い姪をがっちり抱えて、クリスティーナが平然と首を振る。
クリスティーナの向こうにいる王子も、肩をすくめるだけだった。
「気にしないで、フロラ」
「で、でも……!」
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