シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

39 ファセットの幻の姫君

 果たして。
 ガーネットは、気絶もケガもしていなかった。自分で起き上がり、地面に座りこんで、しおしおと泣いている。
「いたーい」
 泣き声も、さっき床で滑って転んだのと同じ程度の、おとなしいものだった。
 顔から落ちたはずなのに、そこには傷一つない。だが、化粧だけは崩れた。
「あいかわらず、妙なところでドジだよなあ」
 王子が呆れて、令嬢を苦々しく見下ろす。
「王宮の階段でも床でも良く転んでいるし。魔女だから無事なんだぞ?」
 クリスティーナが片頬で皮肉げに笑う。
「資産家で政治家のお父様がいらしてよかったわね? ファセットの幻の姫君。金と権力で素性を隠してもらって、魔女であっても令嬢のままでいられるのですもの。戸籍を消されて家を出てからも、まるで屋敷に住み続けているような顔をして、家の舞踏会にも出て」
「あら、心外ですわ」
 ガーネットは顔を上げる。涙で化粧が流れていたが、クリスティーナのいやみにはけろりとしていた。
「父の庇護には感謝しております。でも、魔法使いになれたのは、誰のおかげでもありません。わたくしに実力があったからですわ? 力が無ければ、最後に師匠が与える『魔女殺しの呪い』をしのげませんもの」
 本人は自信をのぞかせるように、笑ってみせる。だが、肌色のおしろいがあちこちはげ落ちてまだらになり、口紅も落ちてしまっている。元来が美しい顔だけに、それはひどく滑稽に見える。



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