シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

50 何でも知っている彼女たち

 時計室はすぐそこだが、彼女たちの自己充足への情熱、つまり玉の輿をねらう意気込み、に突き動かされた行動には油断ができない。
 熱意において研究者に勝り、俊敏さにおいて野生生物に勝り、持久力において修行者に勝る。
 簡単にいうと、怖い。
 事実、王子が時計室の扉を開けて駆け込んですぐ。
 王子より、はるかに遠い位置から出発したはずの彼女たちの声が、扉の向こうで響いた。
「ここですわ!」
「たしかにここの部屋に入られました!」
「私の調べによると、この部屋の出入り口はここだけでしてよ!」
「では、待ち伏せいたしましょう! 必ずいつか出てらっしゃるから!」
「んもう! 歯がゆいわ! ここが王宮でなかったら、今すぐ扉を開けるのに!」
「でも油断いたしましたわね! こちらにいらっしゃるってわかっていたら、こんな派手な服は着てきませんでしたのに! 今日は、大学が休講だったのかしら?」
「いいえ! 調査によると、ファセット家とマッキンリー家とウェリントン家とジョンソン家の令嬢たちが昼食時に大学へ訪問なさったはずです!」
「まあ! では、あの方々からお逃げになって、大学から帰ってらしたのね! 予想外だわ! あんなにお上品な方々からお逃げになるなんて!」
「ちょっと待ってくださいな! それでは、王子様はあの手の令嬢たちも眼中にないってことですの? では、一体どういう方がお好みなのかしら?」
「ファウナス王子様って、なんて強敵なのでしょう! 好みの傾向がわかったら、またドレスを買いなおさなければ!」
「でも、調べ上げて、必ず、攻略してみせましょうね! 絶対に!」
 彼女たちは、勢い込んで話すあまり、自分たちの声の大きさを意識していない。
 だから、扉の向こうで響く声は、否応無く王子の耳に入ってくる。
 王子は、どっと疲れた。



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