「こうなると、妃選びというより、戦いだな」
「王子……」
気遣ってファウナ王子の顔を見上げるフロラに、渋い顔を引っ込めてから軽く笑ってみせる。
「一番元気のいいお嬢さんたちに見つかってしまったんだ。遠く離れていたのに、どうして私だとわかったんだろう?」
肩をすくめると、フロラがくすりと笑った。
「それだけ興味をもたれているのですよ。でも、そんな風にはっきりと好意を表せるって、私は少しうらやましいです。王子にとっては、とても大変でしょうけれど」
相手は渋い顔に戻って、首を傾げた。
「好意というより、彼女たちは自分の地位向上のためだからなあ。きっと、妃になれたら気ままで贅沢な暮らしができると思っているのだろうけど。実際は、王族の暮らしは節制第一なんだけどね」
外では、まだ、わいわい言っている。
王子は、上で回っている歯車を見上げて、床に腰を下ろした。
「ああ。気が楽なのは、この部屋と大学にいるときだけだな……」
フロラは微笑んで、隣に座った。
何も言わずにそばにいてくれる。
相手の平穏な時間を大切にするように。
王子は、そっとフロラの横顔を見た。
ただ、隣にいてくれる。
今の自分にとって、それは一番うれしいことだ。
フロラは、自分が辛い目にがあってきた分、人の気持ちがわかるんだろうな。……いや、どんな経験をしても、それを糧にして強く優しくなれる者もいれば、そうでない者もいる。苦労したからといって、誰でもこうなるとは限らない。
「フロラは、優しいね」
気づいたら、そうつぶやいていた。
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