「わざわざお前が持ってきてくれたのか。ありがとう」
明らかに憮然とした表情の王子に、侍従長は好好爺の微笑みを浮かべる。
「なんのなんの。扉の前には元気な令嬢方がいらっしゃいましたのでな。普通の者は通るに通られず、私の出番というわけです。フォッフォッフォ」
王子は、侍従長から紙袋をひったくった。
「さっさと行け」
侍従は、年老いたムク犬のような、何を考えているかわからないとぼけた表情をした。
「なんですかなその言葉遣いは? そこなる扉を消してもよろしいということですかな?」
言葉の終わりで、にやっと笑った。
王子は、石のように固い言葉を返答にして贈った。
「すまなかった悪かった心から感謝しているやはり亀の甲より年の功だな」
魔法使いは満足げにうなずく。
「わかればよろしいのです。感謝の心と高齢者を尊敬する心は、忘れないにこしたことはありません」
馬鹿丁寧に一礼して、侍従長は消えた。
相手をした王子は、疲労が倍増した。
今日は、どうしてこんなに魔法使いにかまわれるのだ?
もう、夕刻からの舞踏会を無視して部屋で寝てしまいたいほど疲れた。
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