王子は、侍従長がいた場所を、無言で見つめた。
まるで、目には見えない重要なものが、そこに生まれたかのように。
そうしながら、二人の魔法使いが言った言葉を、頭の中ではんすうして、じっと考えた。
『すでに巻き込んでるではないですか。知った上でそうなる方が、少なくとも本人が納得できるでしょう?』
そうだ。
もう、巻き込んでいた。
舞踏会へ連れて行った。
令嬢たちから一緒に逃げた。
悩む私を気遣ってもらった。
『それとも、逃げますか? 蛇穴に放り込まれた小兎のような妃を放って』
逃げない。
決めた。
すっかり黙り込んでしまった王子を、フロラは心配した。
好きなことをなさりたいでしょうに。
なのに、自分の生き方を決められない。
それは、とても窮屈なことだ。よく、わかる。
大人になって、これから未来が始まる。
なのに、他人が勝手に閉ざしてしまう。
それは、とてもひどいことだ。とてもよく、知っている。
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