「フロラ」
「ファウナ王子」
二人は、同時に名を呼んだ。
王子は、向かい風を受けるような凛とした表情で。
フロラは、風が健やかに吹き抜けることを願うような表情で。
だから、お互いに不思議そうな顔をした。
「どうしたの? フロラ」
「ファウナ王子こそ、どうなさいました?」
王子は、心配そうなフロラに、微笑んでみせた。
「私は後で言うよ。お先にどうぞ?」
フロラは、じっと王子を見上げた。
北の海のような青い瞳が、その深い色合いと同じくらいに、優しさを満たしていた。
「どうか、気を落とされないで」
王子は、首を振った。
「……うん。ありがとうフロラ」
「私で役に立てることがあれば、お手伝いいたします」
「ううん」
王子は、フロラの申し出を、そっと断った。寄り添って咲く野の花のように、小さいけれどかけがえのない優しさを。
そして、強く微笑んだ。
「いいんだ。大丈夫」
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