王子は、切り株から伸びるひこばえのように、すっと立ち上がった。
「王子? 部屋を出ますか?」
フロラも立とうとする。
「違うんだ。フロラは、どうぞ座っていて」
王子は笑んでそれを制して、フロラの前で膝をついた。
不思議そうなフロラを、秘密の花園に咲いた白いバラを愛でるように、見つめる。
「フロラ」
「どうされました? ファウナ王子」
王子は、微笑んだ。
「私のことを心配してくれて、ありがとう」
フロラは「いいえ」と言って、困ったように笑う。
「ただ隣にいたり、舞踏会についていったりするくらいですけれど」
すこし目を落とした後、再び王子の目を見て、相手の不安を和らげるように、清涼な微笑みを浮かべた。
王子は、そんなフロラをまぶしそうに見つめた。
「あのね、フロラ」
「はい?」
照れたように微笑むと、王子は言葉を続けた。
「私は、フロラに黙っていたことがあるんだ」
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