「ごめんなさい、王子。わたし……」
ファウナ王子は、瞬間、目をみはって、次に、無理に落ち着いた声を出した。
「そう……。駄目なんだね」
王子は、やっぱりな、と思った。認めたくないが、岩のように固く重い確信はあった。
やはり、研究こそが彼女の生涯の伴侶なのだ。ふられて悲しいが、しかし納得はできる。彼女が生き抜いた暗い環境の中で、唯一の灯火は、父との約束を守り抜くことだったのだから。それが生きがいなのは、よくわかる。
「いや、いいんだ。気にしないで。フロラがカールラシェル教授の研究を継ぎたいと思っていることは、知っていたから」
夜の谷底に落ちるような気持ちだったが、王子は、精一杯穏やかな口調で、静かに言った。
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