一階にある広い庭が見渡せる部屋。ここで、三人は朝食をとる。
南に面した窓からは、パンジー、桜草、ひなげし、チューリップ、など、春の花々が虹のような色彩で咲き誇っていた。
焼きたてのパンの香ばしい香りが、食欲をそそる。
切りたてのオレンジの甘酸っぱい香りが、気分を明るくする。
ふんわりしたプレーンオムレツの香りが、できたての湯気と共に立ち上る。
野菜サラダのみずみずしさが、元気をわけてくれる。
紅茶の芳しい香りが、まるで貴婦人のように優雅にたたずんでいる。
「大学、今日は何時からなの?」
もう愛しくてたまらないといった微笑みで、クリスティーナは姪にたずねる。
フローレンスは、オムレツをフォークでとりながら、微笑んだ。
「今日は一限目から。二限目まで講義を受けて、午後からは研究室の方へ行きます」
「そう」
クリスティーナは、紅茶を一口飲んで、続けた。
「王子も一緒?」
「研究室の方でご一緒します」
フロラの浮かべている微笑みに、可笑しさが混じる。
「でも、今日はいらっしゃるかしら? 昨日は、研究室に令嬢が何人も立ち寄られたから」
「あらまあ」
クリスティーナの口元から、こらえきれない笑い声が漏れた。
「フフフ。とうとう大学にまで来るようになったの?」
「はい。特に、ファセット家のご長女様が積極的でらっしゃって」
魔法使いは、もう一口、紅茶を飲むと、あいまいな笑みを浮かべた。
「ファセット家の長女? ああ、『幻の姫君』ね」
フロラは、首を傾げた。
「え?」
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