シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

71 あしらい

 王子は一人で時計室を出た。
 フロラを置いて。
 豪奢な微笑みで。
「ごきげんよう王子様! わたくし、王子様をお待ちしておりましたの!」
「今までお勉強をなさってらっしゃましたの? 王子様」
「今日は、大学の方はいかがさいましたの?」
 派手なドレスを着た令嬢たちが、一斉に黄色い声を上げて取り巻く。
「これは、皆さん。ごきげんよう」
 王子は、空気を一瞬で黄金に染めるように微笑んで、歩き出す。
 王子と一言でも言葉を交わそうと勢い込んでいた令嬢たちは、かつてなく余裕に満ちたその微笑みに、背骨を抜かれた。
「……素敵」
 瞳からはらんらんと輝く強い光が消え、そのかわり、ばら色の霞がかかったようになった。
 王子は、軽く、しかし優雅極まる笑みを浮かべて一同を見た。
「美しいドレスですね。今夜の舞踏会で、あなたがたの相手となる人は、さぞ誇らしいことでしょう」
「まあ!」
「あの、私、是非、王子様と……」
「私も、是非」
 王子は、微笑みを浮かべながら歩いていく。
「ありがとう皆さん」
 明らかに社交辞令だが、それでも、十二分に魅力的な言葉だった。
 令嬢たちは、明かりに惹かれる夜の羽虫のように、後をついていく。

 いくらでもあしらってみせるとも。
 王子は、心の中でこぶしを握り締めて、決意を表していた。
 フロラは守る。
 決して、二度と、以前のような目にはあわせない。
 いつか、妃になったとしても。



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