シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

76 魔女vs魔法使いたち

 魔法使いは柔らかく微笑んだ。
「そりゃあ無理でしょうねえ? だって、二人まとめて魔女殺しの呪いを掛けたもの」
「!」
 プリムラは、はじかれたように顔を上げた。
「どうりで……ただ埋められたにしては苦しかったはずだわ」
 クリスティーナはにっこり嗤って見下ろす。
「死ぬかと思った? ふふふ。良かったわねえ? 死ななくて」
 孔雀色の長衣を翻して、魔法使いはプリムラに歩み寄り、床に落ちた黒い鎖を靴で踏んだ。
 ゴリッ、と、乾燥した骨を砕くような音がして、鎖が砕けた。
 クリスティーナは力量を見せつけるように、いやみたらしい笑みを浮かべて、一音一音はっきりとプリムラに言った。
「ほおら解けたわよ?」
 そうしてプリムラをむっとさせたまま、クリスティーナは、ぐったり横たわっているガーネットに近づく。
「ファセットの姫は、これでも魔法使いだから無事みたいだけど。……いいかげんに寝たふりはよしなさいな?」
 硬い革靴で、愛らしい顔を、思い切り踏もうとする。
「いやっ! 止してくださいませ!」
 ガーネットが、クリスティーナの足を払いのけて、勢い良く起き上がった。
「もうっ!」
 頬をふくらませてクリスティーナを見る。
「今夜の舞踏会に備えて英気を養うべく、せっかく眠っておりましたのに! 顔に傷がついたら台無しになってしまいますわ!」
 その上、プリムラに向かって、いけしゃあしゃあと優しく微笑んだ。
「ああ、良く眠れました。ご苦労様! あなたのおかげで、わたくし、とっても楽ができましたわ!」
 プリムラを取り巻く空気が凍てついた。
「この女……」
 この姫は、わざと「お荷物」になっていたらしい。おそらく自力で簡単に抜け出せただろうに、修行中の魔女にそれを任せ、自分は気絶したふりで惰眠をむさぼっていたのだ。
 魔女は、二人の魔法使いに対して殺意を覚えた。
 魔法使いたちはクスクス嗤いあう。
「やはり、使えるものは使えるだけ使って使い切らなければ! もったいないですわ!」
「ちょっと計算違いしたわ。プリムラも少しはやるようになったわね。ガーネット、あなたは今度から単身で飛ばしてやるから」
「まあこわい。でも、わたくし、もうフローレンス様には何もいたしませんことよ?」



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