「クリスティーナさん……プリムラ?」
フローレンスが戻って来た。
驚いている。
予想しなかった人物がいたからだった。
昼に見たファセットの令嬢と、プリムラ。
「やっぱり! 良く似合うわ!」
クリスティーナは光がこぼれるように微笑んで、愛する姪に駆け寄った。
ドレスも装身具もすべて、優雅に結い上げられた髪と同じ白金色。やさしい金の輝きを抱く白だった。肌はそれにもまして白く美しかった。
その中で、深い青の瞳が、宝玉のようにきわだっていた。
叔母は、フロラの頭の先からすその先までを、満足そうにうっとりと見つめて、深くうなずいた。
「舞踏会にはそれでいってらっしゃいね! でも、転ばないように気をつけるのよ? 普通のドレスより、すそが長いからね。階段で踏まないようにね」
クリスティーナは、姪というよりも、もはや自分の娘のように世話をやく。
フロラはそんな叔母を見て、次に二人の魔女を見、そして当然の問いかけをした。
「クリスティーナさん、この二人はどうしてここに? 怪我をしてます。手当てをしなくては」
「いいのよ。いいの」
クリスティーナはぞんざいに首を振る。
そして、けろりと言う。
「気にしないで。すぐ追い出すから」
「そんな」
フロラは、まともに答えてくれないクリスティーナから目をはずし、プリムラの方を見た。
「プリムラ、……大丈夫?」
床につっぷしていたプリムラは、不機嫌な顔をあげる。
着飾ったフロラを見つめ、すぐに、ふいとそっぽを向いて言い捨てた。
「私に構わないで」
「誰に向かって口をきいてるつもりなの?」
クリスティーナは自分の靴を脱いで投げつける。
硬い革靴が、プリムラの右肩にガツッと当たる。
プリムラは、クリスティーナを鋭く睨んだ後、顔を背けた。
クリスティーナは口中で「ガキなりにフロラから離れようと思ってはいるみたいね」とつぶやいて、少しだけ肩をすくめた。
「まあ……。とてもきれいですわ。女神様のよう」
ぼろぼろのガーネットが、フロラを見てにっこり微笑んだ。
「さ、わたくしも支度をしなければ。では、皆様ごきげんよう。舞踏会でお会いしましょうね? フローレンス様」
すり切れたドレスのすそを広げて優雅に一礼し、ガーネットは消えた。
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