シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

77 フロラと魔女たち

「クリスティーナさん……プリムラ?」
 フローレンスが戻って来た。
 驚いている。
 予想しなかった人物がいたからだった。
 昼に見たファセットの令嬢と、プリムラ。
「やっぱり! 良く似合うわ!」
 クリスティーナは光がこぼれるように微笑んで、愛する姪に駆け寄った。
 ドレスも装身具もすべて、優雅に結い上げられた髪と同じ白金色。やさしい金の輝きを抱く白だった。肌はそれにもまして白く美しかった。
 その中で、深い青の瞳が、宝玉のようにきわだっていた。
 叔母は、フロラの頭の先からすその先までを、満足そうにうっとりと見つめて、深くうなずいた。
「舞踏会にはそれでいってらっしゃいね! でも、転ばないように気をつけるのよ? 普通のドレスより、すそが長いからね。階段で踏まないようにね」
 クリスティーナは、姪というよりも、もはや自分の娘のように世話をやく。
 フロラはそんな叔母を見て、次に二人の魔女を見、そして当然の問いかけをした。
「クリスティーナさん、この二人はどうしてここに? 怪我をしてます。手当てをしなくては」
「いいのよ。いいの」
 クリスティーナはぞんざいに首を振る。
 そして、けろりと言う。
「気にしないで。すぐ追い出すから」
「そんな」
 フロラは、まともに答えてくれないクリスティーナから目をはずし、プリムラの方を見た。
「プリムラ、……大丈夫?」
 床につっぷしていたプリムラは、不機嫌な顔をあげる。
 着飾ったフロラを見つめ、すぐに、ふいとそっぽを向いて言い捨てた。
「私に構わないで」
「誰に向かって口をきいてるつもりなの?」
 クリスティーナは自分の靴を脱いで投げつける。
 硬い革靴が、プリムラの右肩にガツッと当たる。
 プリムラは、クリスティーナを鋭く睨んだ後、顔を背けた。
 クリスティーナは口中で「ガキなりにフロラから離れようと思ってはいるみたいね」とつぶやいて、少しだけ肩をすくめた。
「まあ……。とてもきれいですわ。女神様のよう」
 ぼろぼろのガーネットが、フロラを見てにっこり微笑んだ。
「さ、わたくしも支度をしなければ。では、皆様ごきげんよう。舞踏会でお会いしましょうね? フローレンス様」
 すり切れたドレスのすそを広げて優雅に一礼し、ガーネットは消えた。



←戻る次へ→

inserted by FC2 system