「クリスティーナさん」
叔母と姪だけになった部屋で、フロラは尋ねた。
「なあに? フロラ」
「プリムラは」
フロラは心配そうに続ける。
「……魔法使いになれますか?」
クリスティーナは眉を上げて、「そうねえ」と言って、嫌そうな顔になった。
「あのガキ、今日こそは息の根を止めてやろうと思ってたのに、帰ってきたわねえ」
「クリスティーナさん……」
悲しい顔になる姪に、叔母はあわてた。
「フロラが心配することなんてないのよ。ああ嫌だ。あのガキを飼ったばっかりに、フロラがしなくてもいい心配をしてしまうわ。可哀想に」
自分が酷い仕打ちをするせいでそうなっているのに、クリスティーナは心を痛めた様子で、そう言い切る。
だが、その後で、魔法使いはにっこり笑った。
「筋が良いわ。なれますとも」
「本当に?」
「ええ」
フロラは、自分のことのように嬉しくなった。
「よかった……」
クリスティーナはフロラが笑ってくれたので、愛しそうに微笑んでうなずく。
「ふふふ」
たしかに筋がいい。
魔法使いは、どこに放り込んでもしぶとく生きてしぶとく還ってくる弟子に、口には出さないが感心していた。
これならば、なれる。
現に、今日は「魔女殺しの呪い」をしのいでみせた。
さらに、他人への思いやりらしきものを持てれば、もう言うことは無い。が、それはまだ高望みだろう。そうなれば、魔法使いとして一人前になった証拠なのだから。
これから、さらなる苦行に耐え、やがてどんな目に遭っても心を乱さずに、「師匠から受けてきた仕打ちに比べれば、こんなもの物の数にも入らない」と思えるようになればいい。
では、この先どうしてくれようか。
クリスティーナの微笑みが楽しそうなものになった。
「ふふふ」
一見明るい笑みだが、フロラはなんとなく怖いと思った。
それは、才能ある弟子を持った師匠の喜びの表れでもあったが、同時に、血も涙もない魔女の冷酷さでもあった。
フロラの気のせいではなかった。
魔法使いの微笑みは、弟子が報告に来るまで消えなかった。
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