クリスティーナは、にっこり笑う。
「大層なお姫様よ。あら、あなたと同い年だわ。そういえば最近は王宮でもしょっちゅう見るわねえ。王子が目当てだったのね。小さなころは、病弱で、滅多に外に出てこない方だったのに……」
微笑みが、途中から意地の悪いものを含んできた。
「苦労するわねえ。王子も。フフフフフ」
なぜ叔母が暗い微笑みを浮かべるのか、フロラにはわからなかった。
「クリスティーナさん?」
クリスティーナは、フロラには愛情を込めた微笑みで応じる。
「ううん。フロラが気にするようなことは、何一つ無いのよ? そう。そろそろ、王子も『妃選び』から逃げられなくなってきたようね? どうするおつもりなのかしら?」
フロラは、困ったように微笑む。
「王子は、もう少し研究の方に打ち込みたいとおっしゃられているのですけど」
そして、息をついた。気の毒な王子の苦労を思いやって。
「王族ですから、好きなことを好きなだけするわけにはいかないのでしょうね」
それを聞いたクリスティーナは、別の意味で王子のために息をついてあげた。
「そうね。本人がいくら好きでもねえ……。恋愛って、自分の気持ちだけではどうしようもないものね。ままならないものよねえ」
「御馳走様でした」
それまで一言も話さずに食べていたプリムラが、立ち上がった。
「プリムラ。お茶をもう一杯ちょうだい」
クリスティーナが自分のティーカップを指差す。
「カップもかえて」
「わかりました」
カップを取り上げるプリムラに、クリスティーナが小声で言った。
「動揺したのかしら? ガキ」
見るものをみな凍りつかせるような視線で見下ろして、プリムラが小さく返す。
「何のこと? 訳のわからないことを言わないでちょうだい」
「別にいいのよ? あなたの気持ちに興味はないわ。でも、フロラにまた色目使ったら、大鍋に入れて煮溶かしてやる」
「……するわけないでしょう?」
一連の会話は小さく素早く交わされた。
フロラには聞こえない。
彼女は彼女で大学での研究のことを考えているらしく、優しい微笑みを怜悧な真顔に変えて窓外の景色を見つめている。
カップを渡すクリスティーナは微笑む。
「じゃ、よろしくね?」
プリムラは表情無く受け取る。
「はい師匠」
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