そして、フローレンスは王宮の舞踏会へ出かける。
魔法使いの見習いが作ってくれた馬車に乗って。
ほうろうのような光沢を放つ、乳白色の馬車だった。あちこちに上品な草木模様が施されて、細工された白蝶貝がはめ込まれている。それを四頭の艶やかな毛並みの白馬が引く。
城灰色の服を着た見目良い青年の従者が、フロラが馬車に乗るのを恭しく介助する。馬車の中には、四人の麗しい婦人たちが侍女として控えている。
「カボチャの馬車ね。馬がトカゲで、御者はコマネズミ、従者はハツカネズミと」
門のところで見送るクリスティーナが、隣に立っているプリムラを、ひじで小突く。
「さすが気合が違うわねえ? 古株を四匹も付けるなんて。よくできました。休んで良し」
プリムラは、師匠を横目で睨んだ。
「ありがとうございます。師匠」
そして、フロラを見つめた。表情なく。
「行ってらっしゃい」
冷たい声だったが、フロラは微笑む。
「ありがとう。プリムラ」
プリムラは、小さく言った。
「さっさと戻ってくるのよ」
「今、何て言った?」
クリスティーナが弟子の頭に拳骨を見舞う。
「クリスティーナさん……!」
鉄拳制裁にあわてるフロラに、クリスティーナはにっこり応じる。
「甘やかさないで。このガキのためにならないの」
そう言われると、フロラはプリムラをかばえなくなる。
「……はい」
それだけしか、言えない。
「あ、そうだわ」
クリスティーナは、何かを思い出して、姪に微笑んだ。
「王子に伝えてもらえるかしら?」
「ええ。なんでしょう?」
魔法使いは、ひどく楽しそうな笑みを浮かべた。
「『宿題はドレスです。さあ踊ってごらんなさい?』って」
「ドレス?」
意味がわからず瞬くと、クリスティーナは「よろしくね」とだけ言った。
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